書店員が作った賞に「表彰状」
出版社を始めたころは、本を作っても売るのが思うようにいかず、取次-書店ルートに「委託」のかたちで預かってもらうことが多かった。
売れなければ「返品」で戻ってきて、倉庫に山積みされるのを見るのはつらかった。
出版界では、取次-書店の流通形態は大きく変わり、書店もその荒波をかぶってしまったが、仕事でも個人的にも書店さんは今も大きな存在だ。その身近な書店を舞台に生まれた、ちょっとおもしろい「賞」を話題にしてみたい。
「受賞作」は時代を反映して大いに新鮮だ。その一つが「本屋大賞」、もう一つは「料理レシピ本大賞」である。
書店員自らが、書店活性化を目指して生まれた賞で、むしろ「表彰状」を差し上げたいような、素晴らしい賞だと思う。
ご存じの方も多いだろうが、前者は、全国の書店員が、過去一年の間に自分で読んで「面白かった」 「お客様にもお薦めしたい」 「自分の店で売りたい」と思った本を選び、投票で決定される賞で、2022年本屋大賞は『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬, 早川書房)が選ばれた。
個人的には、第14回(2017年)の受賞作『蜜蜂と遠雷』(恩田陸, 幻冬舎)はとくに印象に残っている。
3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説で、とても面白かった。
「直木賞」とのW受賞で、しかも著者の恩田陸さんは、本屋大賞受賞二回の経験者だと後から知った。
一方、「料理レシピ本大賞」 は書店店頭を活性化するという目的のため、2014年に創設された比較的新しい賞。全国の書店員有志が中心となって生まれた。
キャッチコピー「食は本能の言葉! 文字は心の叫び」と、受賞作のオビに書かれていた。昨年は、滝沢カレンさんの『カレンの台所』(料理部門大賞)の受賞で、ご存じの方も多いだろう。
正式には、「料理レシピ本大賞 in Japan」というそうで、最新の2022年大賞は、『リュウジ式至高のレシピー人生でいちばん美味しい! 基本の100料理』(ライツ社)が選ばれた。
著者の料理研究家 リュウジさんは、「今日食べたいものを今日作る!」をコンセプトに、Twitterで日夜更新する「簡単・爆速レシピ」が話題を集め、SNS総フォロワー数は、約590万人。料理動画を公開しているYouTubeはチャンネル登録者230万人を超える、と著者紹介にはある。
日本経済新聞でも紹介されていたが、ここではチャンネル登録者325万人とあったからかなりの人気のようだ。
レシピでの作り方は簡単で、細かい部分はQRコードをつけて動画で確認できるようにしてある。
SNSと書籍が互いを引き立て補完しあって、レシピ再現には大いに役立つ。 この時代に出るべくして出たレシピ本かもしれない。
料理レシピ本の魅力をアピールするため、選考基準に沿って出版社からのエントリーを受付け、その中から書店員からなる「書店選考委員」、料理専門家からなる「特別選考委員」によって各賞が決まるそうで、発想から選考まで、好感が持てる。